秘密の多い後輩くんに愛されています


「清水には私からきちんと言っておきます。ほら、先に席に戻って修正して」

「舞花先輩……。し、失礼します」

私が目配をすると彼女は一礼した後に自分のデスクへ戻っていった。

「まったく……。どいつもこいつも俺の仕事を増やしやがって」

ガシガシと頭をかく部長にそれはこっちの台詞だと言ってやりたい気持ちを抑え込む。

部下を思って苦言を呈するならまだしも、部長の場合はそこに自分の機嫌がプラスアルファされる。

虫の居所が悪いからといって、他者に当たるのはいかがなものか。

オフィスに淀んだ空気が漂っていると部下は萎縮してしまうし、生産性も下がる。

部長はもういい大人なのだから、自分の機嫌くらい自分で取ってもらいたいものだ。



「今日も部長の機嫌最悪だね。でも、舞花が庇うことないのに」

デスクに戻った私の顔を見て侑里は深いため息をついた。

「私たちも新人の頃はよく怒られて、そのたびに先輩が助けてくれたじゃない」

私はその頃に受けた恩を今の後輩に返しているだけだ。

「それはそうだけど、私たちは理不尽に怒られることが多かったじゃない? あの子は自業自得な部分もあるんだから、あまり甘やかしすぎないように」

侑里に釘を刺されるのはこれで何回目だろう。

「……肝に銘じます」

「はいはい」


私の言葉を信用していないのか、デスクに向き直した彼女からは空返事が届いた。
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