秘密の多い後輩くんに愛されています
定時を過ぎた辺りから社員が続々とオフィスを後にする。
今日のノルマを終わらせた私も侑里と一緒にエレベーターホールへと向かった。
七階にエレベーターが到着するのを待っている間にスマホでお店を調べる侑里。
「気になってた居酒屋があるからそこでいい?」
「私は飲めるならどこでも。あっ、その前に少しだけ書店に寄ってもいい? 暁先生の新刊発売日が今日だったはず……」
「ああ、あのいつも読んでる小説の? いいよ」
無駄足にならないように今のうち発売日を確認しておこう。
そう思って鞄にあるはずのスマホを探すけれど見当たらない。
最後に見たのはどこだった? ああ、デスクの上だ。
私が鞄の中を漁っているうちにチーンと音がしてエレベーターが七階に到着した。
開いた扉の先には他の部署の社員が数名乗っていて、私たちが乗り込むのを待っている。
「ごめん、デスクにスマホ忘れたかも。先に下りてて」
「わかった。エントランスで待ってる」
エレベーターホールで侑里と別れた私は急ぎ足でオフィスへと戻った。
中にはまだ残業中の社員がいて、邪魔にならないよう静かにスマホを手に取り、来た道を引き返す。
一階にあるエントランスに一刻も早く向かいたかったのだが、給湯室から女性社員の話し声がして思わず足を止めた。
素通りできなかった理由は中から私の名前が聞こえたからだ。