秘密の多い後輩くんに愛されています
「小説を読みながらコロコロと表情を変える先輩のことが気になって、声をかけたんです。『その小説、そんなに面白いんですか?』って。じゃあ、先輩はなんて答えたか覚えてますか?」
「ごめん。屋上で小説を読んでいたことは覚えてるんだけど上田くんと話した記憶はなくて……。でも、こう答えたんじゃないかな『暁先生の作品はいつどんな時代でも私の心を救ってくれるお守りのような作品』だって」
その気持ちは今も変わらないから。
「正解です。暁先生の作品は面白いけど、それだけじゃないって。就活でお祈りメールが続く日々も、入社して自分の力のなさを知った時も暁先生の作品があったから乗り越えられたんだって力説されました」
「私、初対面の上田くんにそんな話したの……」
「その言葉で俺はまた筆を執ったんです。俺もまた白鳥先輩に救われていたんですよ。そして、もう一度先輩に会うためにゆきのフーズに就職しました」
「社会勉強じゃなかったの……?」
「社会勉強なら他の会社でもできます。俺がゆきのフーズに入ったのは白鳥先輩がいたから。ただそれだけです。伝わりましたか、俺の気持ち」
「うん」
上田くんの気持ちは十分すぎるほどに伝わってきた。
私は上田くんにも暁先生にも救われてばかりだと思っていたけれど、過去の私が少しでも上田くんの力になれていたことを知り嬉しく思った。
次は私が彼に想いを伝える番だ。