秘密の多い後輩くんに愛されています
「あの……さっきから勝手なことばかり言ってて恥ずかしくない?」
給湯室の前を通り過ぎることも、デスクに戻ることもできず立ち尽くしたままだった私の耳に届いたのは男の人の声。
清水さんたちの他にも誰かいたの……?
「何? 上田いたの」
普段、耳にしているよりもワントーン低い清水さんの声がその場にいた人の名前を口にした。
上田くんは清水さんと同じく昨年入社した男性社員。
百八十センチ近い身長にスラッとした手足、目にかかりそうな長い前髪と黒縁のスクエア型メガネで表情は分かりづらいが、黙々と仕事をこなす真面目な後輩だ。
いつも定時に帰宅する彼は飲み会にもほとんど参加しないことから、裏では部長に省エネと呼ばれている。
そんな上田くんがこんな時間まで残っているなんて珍しい。
「見る目がないのは清水のほうだと思うけど」
「それってどういう意味?」
廊下には声しか届かず表情は確認できないけれど、給湯室内は険悪なムードなのだと感じ取る。
「白鳥先輩は自分の株を上げるために行動するような人じゃない。あんなに近くにいてそんなことすらわからないのか」
他の人たちも清水さんと同意見なのかもしれない。
そんな考えが頭を過っていた私にとって、上田くんの言葉は優しくじんわりと胸に広がり、締め付けられていた心が少し楽になった。