秘密の多い後輩くんに愛されています
「何よ、普段は大人しいくせして。あー、もしかして上田って舞花先輩のこと狙ってるの?」
し、清水さん?
彼女は一体、何を言いだすのか。
突拍子もない発言に驚きを隠せない。
「残念だったわね。舞花先輩の元カレ知ってる? 営業部のエース田島先輩。上田なんて足元にも及ばないんだから。人に物申す前にまずはそのダサい姿をどうにかしたら?」
上田くんが私を好きだという前提で話を進める清水さん。
「まずは、そのメガネでしょー。それから……」
彼は後輩として先輩の私を庇ってくれただけなのに、このままではあらぬ誤解を招いてしまう。
それに私のことはともかく、上田くんを見下すような発言は黙認できない。
あくまでも今、通りかかった感を装って給湯室に乗り込もう。
そう決心した矢先、手に持ったままだったスマホからピコンと着信音が鳴った。
そっと覗き込んだ画面には侑里からのメッセージが一件。
《遅くない? まだスマホ見つからないの?》
清水さんの裏の顔に衝撃を受けていた私は、エントランスに待たせている侑里のことをすっかり忘れていた。
「……誰かいるの?」
カツカツとパンプスで床を蹴る足音が近づいてくる。
このままだと最悪のタイミングで顔を合わせることになる。
しかし、廊下に身を隠せるような場所などあるはずもなく。
逃げ場をなくした私は給湯室から出てきた清水さんにあっさりと見つかってしまった。
退社したはずの私が廊下に立っているのだ。
驚いたのは清水さんのほうだろう。
私の顔を見て目を見開いたかと思えば、次第に青ざめていく。