引きこもり令嬢の契約婚約


(ついにこの日が来てしまった……)

 今日はエリオットとの見合いの日だ。一度は行く決意を固めたものの、やはり間際で怖気づき、仮病でも使って……と考えたところで、昼休憩で戻ってきた父親に、『今日の腹痛は緊張のせいだ。行けば治る』と馬車で連行された。

(口をはさむ隙間もなかった。十八年も私の親をやっているだけあるわ)

 城に着いてからは、仕事のある父とは別行動だ。まだ時間も早いが、他に行くところがあるわけでもないので、庭園の東屋で持参した本を読むことにする。

(ああでも、緊張しているからか頭に入らないな)

 視線が上滑りしているのに気づいて、セアラは本を閉じ、辺りを見渡す。
 さすが王城の中庭。日当たりもよく、季節の花々が競うように咲き誇っている。

(あのあたりにタンジーを植えるといいんじゃないかしら)

 タンジーはキク科の一種で小さな丸い黄色の花をつける。独特のにおいによる防虫効果があり、栄養素を多く含むため、土を肥やすことができる。田舎の方では、害虫よけとして果樹園や畑などにも植えられているハーブだ。

(あ、でも、弱毒性だったかしら。だから駄目なのかな。間違って王族の口にでも入ったら一大事ですものね)

「あら、ごきげんよう」

 甲高い女性の声に思考を中断され、セアラは顔を上げる。そこにいたのは、まばゆいばかりの金髪の、うら若き乙女だ。

「え……っと」

「ごきげんよう。シーグローヴ侯爵令嬢様。私、キャンベル侯爵が娘、アドレイドと申します」

「まあ、公爵令嬢様」

 侍女を従えて見下ろしてくるアドレイドに、セアラは立ち上がって礼をする。
 おそらくだが、彼女は自分より年下だろう。見覚えは無いので、同学年ではないはずだ。

「私になにか御用でしたか……?」

「あなた、今日エリオット様とお会いするのでしょう?」
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