引きこもり令嬢の契約婚約
「オズボーン王国から建築技師を招いて、わが国でも技術者を育てたいんだけどなぁ……」

「文化施設……という意味合いでは難しいかもしれませんね」

 平和な今なら、考えてもらえるかもしれないと思ったが、甘かったようだ。

「城を建て替えるわけにもいかないしね。……国民の役に立ついい施設はないかなぁ……」

 頭を抱えるエリオットを慰めるように、ローランドは微笑んだ。

「エリオット様が望むものは、一朝一夕でできるようなものでもありませんよ、まずは国民の理解を得ないと」

「そうだね。まずは国民の芸術への意識を高めたいなぁ」

 文部大臣から却下された書類を机の上に置き、見合いの日程を眺める。
 相手はいずれも十六から十八歳の令嬢だ。

「どれどれ、アドレイド・キャンベル公爵令嬢とソフィア・オルセン侯爵令嬢、そして、セアラ・シーグローヴ侯爵令嬢か」

 前の二人は夜会でも見る顔だが、セアラ嬢のことは記憶にない。

 もちろん父親であるシーグローヴ侯爵のことは知っている。領地がやや遠くにあり、銀鉱山を保有しているはずだ。

「ローランドはセアラ嬢のこと知っている?」

「あまりお名前を聞かないご令嬢ですね。十八歳という年齢からすれば、エリオット様とも学園に同時に通っていた時期もあるはずですから、一番見かけていてもいいはずなのですが。ああでも、学園の成績優秀者のリストの中にお名前を拝見したことがあります」

「……優秀なの?」

 身上書が添付されているらしく、ローランドは一枚ぺらりとめくった。

「どうやら今も大学に通っておられるようですね。聴講生としてですが」

「大学に?」

 ブライト王国は小さな国土であり、国立大学は王都にひとつしかない。それも進学するのはほぼ男性だ。大学になど行っていたら、貴族の女性は嫁ぎ遅れてしまう。

「勉強家なのか」

 エリオットは興味が湧いた。一度も夜会で見ることのない引きこもり令嬢かと思えば、勉強好きだとは。

「少し乗り気になって来たよ。とりあえず大臣が出してきたスケジュールにのっとって、見合いをしてみようじゃないか」

「ええ。では異存なしと伝えておきますね」

 ローランドが部屋を出ていき、エリオットは無意識に右腕を上げる。
 しかし、いつもはすぐにやってくるホワイティは来ない。

「ああそっか。ケンカ中だっけ……」

 苦笑しながら、エリオットは右腕をおろす。

「……やっぱり僕もちょっと寂しいかもなぁ」 

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