引きこもり令嬢の契約婚約
聖獣の加護
エリオットは昨晩、シーグローヴ侯爵に事の顛末を話した。
セアラが急に自信を無くし、打ちひしがれていること。その姿があまりにも痛々しく、見ていられずに婚約破棄を提案したこと。
『僕自身は、彼女が戻る気があるならば待っているから』
エリオットの言葉に、シーグローヴ侯爵は深々と頭を下げ、『セアラの意思を尊重するつもりです』と告げた。
父である王にも同じように告げたが、『そんなに弱気では、王太子妃となるにはつらかろう』とぽそりと言った。
おそらくは、心を壊したという母のことを思い出しているのだろうと思い、エリオットもそれ以上突っ込んだことは聞かなかった。
そのほかの人間には、正妃教育をしばらく休みとすることのみ伝えたので、城勤めの文官の間では、セアラは体調を崩したようだと噂が広まっていた。
「シーグローヴ侯爵令嬢が正妃教育を休まれているそうですな」
わざわざエリオットの執務室にまで来て、そんな質問を投げかけるのは、キャンベル公爵だ。
エリオットは目を合わせることも無く、淡々と答える。
「ああ。少し疲れもたまっていたようだから休ませようかと思ってね。……そういえば、昨日、セアラは君の家に行ったらしいな」
ゆっくりと顔を上げ、キャンベル公爵の瞳をとらえる。
彼は満足そうな笑みをたたえている。エリオットは反吐が出そうな気がしたが、努めて冷静な態度を心がける。
「ええ。娘とお茶会をし、……打ちのめされた様子でしたな。やはり自分は、王太子妃となる器ではないと思われたのではないですかな?」
「君のご息女も王太子妃になるには落ち着きがないけれどね」
我慢しきれず言ってしまい、ため息を吐き出して、首を振る。
「失礼。……セアラはよくやっているよ。苦手な社交も頑張ろうとしているじゃないか。苦労しているようだと思うなら、ぜひ協力してあげてほしいね」
(この態度を見るに、キャンベル公爵令嬢が何か言ったんだろうな)