引きこもり令嬢の契約婚約
 そうしているうちに、屋敷の前に馬車が停まる。降りてきたのはマイルズだ。

「マイルズ、おかえりなさい」

 マイルズはちらりと顔を上げると、ため息をついた。

「何してるんだい、姉さま。また庭いじり?」
「ソフィア様が来ていて、お見送りしていたのよ」
「……へぇ。次期王太子妃の価値がなくなった姉さまに会いに来る人なんているんだ」

 棘のある言い方に、セアラ萎縮する。
 しかし、マイルズとは一度しっかり話さなければいけない。セアラは息を吸って、顔を上げた。

「あのね、マイルズ」
「姉さまが」

 同時声がでて、ふたりは同時に黙る。

「……姉さま、先にいいよ」
「いいえ。マイルズが先に」
「じゃあ言うけど。……なんで急に婚約破棄になんて話になったのさ」
「……それは」
「僕はいいことだと思ってた。引きこもりだった姉さまが、少しずつ明るくなって、人と交流するようになって。そりゃ重責だってあるかもしれないけど、姉さまならきっとやれるだろうって」

 マイルズの握り込んだ拳に、力がこもる。

「口さがない噂があったのは知っているよ。でもそんなの、あたり前の話だろう? これまで、全然表に出なかった侯爵令嬢が急に王太子の婚約者になったんだ。そのくらい、覚悟していたんじゃなかったの?」

 セアラは黙って、頷いた。マイルズは、爆発したように畳みかける。

「もう、どうして姉さまはそうなんだよ! どうせキャンベル公爵令嬢に、僕が姉さまのせいでいじめられているとでも言われたんだろ?」
「……違うの?」
「いろいろ言ってくる奴も、嫌がらせしてくる奴もいるけど。別に平気だよ、僕は。そんなこと言ってくる奴は友達じゃないし。姉さまが王太子妃にならなくたって、僕は家格の力でそこそこの地位にはつける」
「マイルズ」
「僕は姉さまが、自分のせいでとか、自分が至らないからとか、マイナス思考に陥るのが嫌なんだ!」

 吐き出すように言ったあと、マイルズはセアラを押しのけるようにして屋敷の中へ入っていく。
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