引きこもり令嬢の契約婚約
「待って、マイルズ」
昔から姉思いな弟だ。セアラが引きこもっていたことにも、もしかしたら心を痛めていたのかもしれない。
「待って」
その時だ。セアラの服の袖口から、ネルがちょこっと顔を出す。
「キュー」
聞きなれない声に、マイルズは動きを止めた。
「今、ネズミかなんかの声がしなかった?」
「ネズミじゃないわ。モグラよ」
「なんだモグラか……じゃないよ! なんで家の中でモグラが」
「キュー」
セアラの左の袖口から顔を出したネルが、パタパタと手を振る。
マイルズが目を向いて凝視する。
「なっ、ね、姉さま。いつからモグラを飼って……」
「マイルズ、ネルちゃんは聖獣なの。あんまり失礼なこと言わないで」
「はあ?」
マイルズは目を剥いて、周囲を見回す。使用人たちが驚いているのに気づき、慌てて、セアラを自室に引き込んだ。
(あら。マイルズの部屋に入るのなんて久しぶりだわ)
すごく空気がこもっている。使用人に掃除をさせていないのか、物が乱雑に置かれていて汚い。
「聖獣って、どういうこと!」
「実は……今日いろいろあって、聖獣の加護をいただいたの」
「は? 誰が? 姉さまが?」
「……うん」
マイルズは再びセアラの袖口を見る。ネルが眩しそうに目をぱちぱちして、『マイルズ、よろしくね』と言っている。
「これ……が?」
「マイルズ、失礼よ」
「いやいやいや。待ってよ、姉さま。僕、話についていけないけど」
頭を抱えてしまったマイルズを椅子に座らせて、セアラはまず、部屋の窓を開けた。
「マイルズ、あなた、掃除のメイドをいれていないの? 空気がよどんでいるわ」
「最近、いろいろ立て込んでいて……。あ、ちょっと、勝手に触らないでよ」
テーブルの上を片付けていると、手紙が数通ぽとりと落ちた。
どうやら女性からのものらしい。