引きこもり令嬢の契約婚約
(ラブレター? まさかね)
「……姉さまがエリオット様と婚約してから、急に僕に言い寄ってくる女の子が増えたんだ。モテるのはうれしいけど、明らかに僕目的じゃないじゃん。でも角を立てるわけにはいかないから、傷つけない文面考えたり、ちょっと忙しかったんだよ」
「だから、毎日疲れていたの?」
「あと、ちょっとむなしくなっただけ。僕の価値ってその程度? みたいな」
それは想像するだけでも確かに辛いかもしれない。
セアラはそっとマイルズの頭を撫でた。思えば、こんなことをするのは何年ぶりだろう。弟に身長を抜かれてから、彼のつむじを見ることも無くなっていた。
「私にとっては、優しくて思いやりのある最高の弟よ」
マイルズは恥ずかしそうに耳のあたりを赤くしながら、セアラを見上げてきた。
「……うれしいけど。姉さまに言われてもね」
「キュー」
「聖獣様、なんだって?」
「マイルズってかわいいねって」
「ちぇ……」
十五歳の少年が、かわいいと言われてもうれしくはないのだろう。マイルズは唇を尖らせてプイとそっぽを向く。
話している間に、空気が随分すっきりしてきた。
「なんか、息が楽になってきたね」
「酸欠よ。しばらく閉めっぱなしにしていたんでしょう。あまり窓を開けないなら、植物を置いた方がいいわ」
「そうなの? へぇ。やっぱり姉さまはすごいや」
久しぶりにしっかりマイルズと話して、セアラは胸のつかえがとれたような気がした。
「ねぇ、マイルズ。相談があるの。私ね、もう一度エリオット様と話をしたい」
「えっ?」
目があった。驚きと期待がそこにはある。
「落ち込んで勝手に身を引こうとしたけれど、私にも価値があるってネルちゃんが教えてくれた。私、もう逃げるのはやめたいの。そのために、マイルズにも力を貸してほしい」
「もちろん。いいよ! 僕はずっと、姉さまに前を向いてほしかったんだ」
「ありがとう」
セアラとマイルズは、久しぶりに和やかに夕食の食卓を囲んだ。