引きこもり令嬢の契約婚約
(どうしようかしら……)

 とにかく今は穏便にこの場を収め、帰ってもらうべきだろう。
 さて、どう言えばいいか……と考えあぐねていると、彼女の後ろに人影が見えた。

「あの、アドレイド様」

「なあに、私の言葉を遮るなんて」

「いえ、エリオット様が……」

 アドレイドが振り向くと、すぐ後ろに、側近を従えたエリオットが立っていた。さすがのアドレイドも驚いたのか、背中に緊張が見て取れる。

「え、エリオット様」

「アドレイド嬢。今日は学校じゃないのかい?」

 つややかな金色の髪、やや垂れ目の柔和な顔をしたエリオットは、穏やかな笑顔を浮かべている。しかしその瞳が冷淡な色を宿しているようにも見えた。

「それに今日は君との約束の日ではなかったと思う。僕は、勉学は大切だと思うけれど」

「ちょ、ちょっと父に用事があり寄っただけです。もちろん、学園へは毎日行っていますわ。今日は、その、……授業が終わってすぐ出てきただけです! そういえば調べ物があったのですわ! 図書館に行かなければ」

 アドレイドは言い訳するように早口で言うと、そそくさとその場を去った。
 セアラとエリオットと彼の側近だけが残される。
 セアラはなにを言ったらいいかわからず、ただ彼を見つめる。すると視線に気づいたのか、先ほどよりも柔らかい笑顔でこちらを向いた。

「ええと。君がシーグローヴ侯爵令嬢セアラ嬢かな?」

「はい。お初にお目にかかります。エリオット様」

「……よかった。普通の子だ」

 そつなく頭を下げたセアラの耳に、ほっとしたようなつぶやきが届いた。彼の言葉とは思えず、驚いて顔をあげて見てみるが、彼の表情には変化がなかった。もしかしたら、空耳かもしれない。

「ごめんね。嫌な思いをさせた。アドレイド嬢はちょっと我が強いみたいで」

「殿下が謝られることではありませんから」

「でも警備の不備は僕の不手際でもあるからね。……ローランド、ここはもういいよ。お茶を頼んできてくれるかい」

「かしこまりました」

 エリオットはそう言って側近を追いたてた。
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