引きこもり令嬢の契約婚約
「座ろうか」
促されて、セアラも腰を下ろす。落ち着いてきたら鳥の声や虫の声が耳に入るようになってきた。昼下がりの庭園。今日は人払いをされているからか静かなものだ。
エリオットは眩しそうに目を細めて、庭園を見ている。
(……キラキラした人だなぁ)
自国の王子が見目麗しいというのは良いことだとセアラは思っている。確かに賢さや性格も大事だが、第一印象は外見で決まることが多いのだから、良いに越したことはない。
だからこそ、彼の隣を飾る女性も、美しい人が相応しいと思うのだ。
(だから、私はないわね)
ひとり、そう結論付け、間を持たせるべく、困った時の奥の手である〝天気の話〟を振る。
「えっと、いいお天気ですね」
「え? ああそうだね。風が気持ちいい」
「そ、そうですね」
そこから、会話は続かなくなってしまった。思ったよりもあっさり収束してしまい、セアラは背中に汗をかいてきた。
必死に何か言わなければと思うけれど、何も思いつかない。
そもそも、引きこもりのセアラは、父と弟以外の男性と話すことなどめったにないのだ。話題など思いつくはずもない。
(ど、どうしよう……!!)
握った拳の中は汗だくだ。やはり王太子とのお見合いなど、引きこもりの自分には過ぎた行動だった。ホワイティのことを聞きたくとも、ひと言も言葉に出せない。
(ああ、アドレイド様が正しかったわー!!)
思えばアドレイドは勝手にまくしたててくれるから、セアラがひと言も話さなくとも間は持った。あの話術、実はすごいかもしれない。少なくとも、セアラよりは王太子妃にはむいているだろう。
セアラの窮地を救ってくれたのは、お茶を運んできてくれたメイドたちだ。
「お待たせいたしました」
彼女たちの柔らかな声で、固まりかけていた空気はほぐれた気がした。
優雅な所作でデザート皿が並べられているのを見て、お茶の香りにほっとする。