引きこもり令嬢の契約婚約


『来たわね、セアラ』

 高いところから聞こえたのはそんな声。
 見上げると、王城の二階のベランダにホワイティがとまっている。

『あっ、ねえさーん』

 ネルが、セアラの袖口からぴょこりと顔をだし、すぐに『眩しーい』と言って引っ込んでいく。

(かわいくて、気取ったところが無くて。聖獣なんだろうけど、なんか親しみがあるんだよなぁ、ネルちゃんは)

 おかげで、セアラとしても気負わず仲良くできるわけだが。

「シーグローヴ侯爵、セアラ、急に呼び立ててすまないね」

 エントランスからエリオットの声がして、セアラは体温が一度上がった気がした。
 父の背中越しに見える彼の姿は、別れを告げられた時と変わらない。

「父上との約束の時間には三十分ほどある。公爵、少し、セアラと話させてもらっても?」
「ええ。セアラ、行っておいで」

 父に促され、セアラはエリオットの後についていく。彼が向かったのは二階のベランダで、そこにはホワイティが待っていた。

『こんにちは。セアラ』
「ホワイティ様、ごきげんよう」

 セアラが淑女の礼をとると、エリオットはわずかに目を見開く。

「聞こえるんだ。やっぱり、本当に聖獣の加護を得たのかい?」
「はい。あの」
『初めまして、エリオット。私、ネル』

 セアラのドレスの袖口からぴょこりと顔を出したネルを見て、エリオットの顔が驚きで固まる。

「す、すみません。ネルちゃんは明るいところは苦手らしくて、服の中が居心地いいそうなんです」
『まぶしいとくらくらしちゃうんだもん』

 そう言うと、再び袖の中へと戻っていく。

「……くっ」
「え?」
「あ、あははっ。ごめん。笑っちゃダメなのに」

 いきなりエリオットが噴き出したので、セアラはあっけにとられてしまった。

「ごめん、いや、この子。君にそっくりだなと思って」
「私は別に日光の下が駄目なわけじゃありません!」
「いやいや、前に劇場で眩しくて立ち眩みを起こしていたじゃないか」

 そんなことがあっただろうか。思い出せないが、あまりにもエリオットが笑うので恥ずかしくなってきた。
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