引きこもり令嬢の契約婚約
「失礼いたします」

(えっ、あっ、行かないで。メイドさん!)

 思わず声の方を振り返ったが、すでに彼女たちは背を向けて歩き出していた。
 再びエリオットとふたりになり、気まずさに下を向いたままでいると、ようやくエリオットが口を開いた。

 「さて。改めて、セアラ嬢。今まで夜会でも見たことが無いが、君はいつもどこにいるんだい?」

 突然の質問は、セアラも首をかしげるような問だった。

「どこって……、ええと。大体家にいます」

「時々大学に顔を出していると聞いたけれど」

「えっ、どうしてそれを……」

 セアラは表情を取り繕うことができなかった。おそらく、不快な表情を浮かべていたと思うが、エリオットは笑顔を崩さない。

「一応、王太子妃候補だからね。一通りは調べてあるよ」

 さらりと、なんでもないことのように彼は告げる。
 実際、彼にとってはなんでもないことなのだろう。王子である彼には、プライベートなどあってないようなものだ。結婚相手さえ、身分の釣り合いを考えて選ばなければならないのだから。

(王太子様って大変なのね)

 セアラは比較的自由に過ごしてきた。なんだかんだと娘に甘い父親は、セアラがやりたいことには、最終的に頷いてくれたから。

(……帰ったらお父様に優しくしよう)

 そんなことをひそかに誓い、セアラはエリオットを見つめ直す。
 全体に優しそうな印象だ。先ほどの令嬢への対応でも、声を荒げることはなかったので、基本的に温和な人なのだろう。戦時中ならそれを頼りないと思うかもしれないが、平和な今は、物腰の落ち着いた人物が王であった方が、外交的にもいいだろう。
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