引きこもり令嬢の契約婚約
「ホワイティは、風の魔法と薬の調合ができる」
「まあすごい。見てみたいわ。ホワイティ様、風を起こすことはできますか?」
ホワイティはじっとアドレイドを見た後、羽根を動かした。途端に室内に風が吹き、キャンベル公爵の執務机に乗せられていた書類がはらりと落ちた。
「すごい! さすがですわ!」
浮かれるアドレイドに、エリオットは穏やかに告げる。
「七年前の疫病も、彼女の功績で収束したんだ」
「まあ、そんなことがあったんですか」
疫病が流行った時、アドレイドはまだ九歳。危険を知ることなどなかったかもしれない。
それでも、国の歴史について正しく学んでいれば、その出来事を知ることはできただろう。
そのくらい、国にとっては重要な出来事だった。
「……やっぱり、違うよなぁ」
ぽそりと言うと、エリオットは指を小さく上げる。するとホワイティはアドレイドの腕を飛び立ち、エリオットの肩に乗った。
「さて、キャンベル公爵、先日の話の続きだけど。……僕はいったん、あの話は白紙にしようと思う」
「な、なぜですか? 殿下も乗り気だったのでは」
「僕が本当にしたいのは、この国を豊かにすることだ。戦争が終わって、経済が復活して、これからは心の豊かさを求めるべきなのだと。しかし、城で一部の人間に美術品を公開するだけでは、真にやりたいこととはずれが生じるなと思ってね」
キャンベル公爵は、アドレイドと軽く視線を交わす。
「そうですか。残念です。……殿下、どうぞお茶を飲んでいってください」
「ああ、ありがとう」
エリオットはカップを口元に動かし、飲んだふりをする。