引きこもり令嬢の契約婚約
 ふたりきりなり、アドレイドは大きく息をつく。

「……エリオット様から聞きました。セアラ様と婚約破棄をする気はないと」
「はい。……その、アドレイド様から見たら、私が至らないのは確かなんですが、その……」
「聖獣様の加護をいただいたんですってね」

 セアラの言い訳めいた語りを、アドレイドのきっぱりした声が割る。

「……ええ」
「本当なのね。では、もう私にはどうすることもできないわ。聖獣の加護は努力で得られるものじゃないもの」

 ぽそりと告げると、アドレイドは目を伏せる。

「もう……終わりだわ。エリオット様に選ばれない私は、キャンベル公爵家にとって価値がない」

 アドレイドの手が震えていて、セアラはそこから目が離せなくなった。

(きっと、子供の頃から王太子妃になるんだと言われて育ったのでしょうね。ソフィア様も、アドレイド様も、自分の意志とは関係なく……)

「勉強も、社交も、そのために必死にやって来たのに」

 次の瞬間、アドレイドは激高して立ち上がった。

「なのに、そのすべてが無になるのよ。お父様も私には失望したって言ったわ。私にはエリオット様の妻になるほかに道なんてないのに……!」

 セアラにつかみかかり、叫ぶ。しかしセアラは怖くはなかった。
 彼女が泣いていることの方が気になって仕方なかったのだ。

「あなたなんて大嫌いよ! ずるいわ、努力もなしに聖獣に気に入られるなんて」
『やめて。セアラに触らないで』

 その時、ぴょこりと袖口からネルが顔を出し、ひるんだアドレイドが手を離した。
 セアラは一歩下がって、アドレイドから距離をとる。
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