引きこもり令嬢の契約婚約
「これが……聖獣?」
「ネルちゃん。いいのよ」
『この子が努力してきたのはわかるよ。でも、セアラが努力していないなんて決めつけるのはおかしい』

 セアラにも同様の憤りはある。だけどそれ以上に、アドレイドの焦燥感が伝わってきて、責める気持ちにはならなかった。

「な、なによ。何言っているかわからないわ」

 アドレイドは、おびえたように後ずさる。もとよりモグラが得意な令嬢はそんなにいない。セアラが特殊なのだ。

 セアラは立ち上がり、アドレイドに小さく礼をする。
 その所作の美しさに、アドレイドは言葉を失った。かつてのおどおどした様子と違い、背筋を伸ばして立つセアラには、生まれ育ちの良さからくる気品のようなものが感じられたのだ。

「私が、社交をおろそかにして引きこもってきたのは事実だわ。アドレイド様の気が済むなら、どれだけののしられても構わないの」

 セアラの淡々とした返答に、アドレイドは怪訝そうな表情をした。

「でも私、もう逃げないって決めたの。……だから、なんと言われようと、エリオット様の手を離すことはないわ」

 ごめんなさい、と続けようとして、セアラは口ごもる。謝るなんて傲慢なような気がしたのだ。

「な、なによ。開き直って……。私には無理ですって言いなさいよ! そうしたら、そうしたらエリオット様だって私を……。私には、それしか道はないのに」

 アドレイドの目からボロボロと涙がこぼれていく。セアラはいたたまれなくなってきた。

「もし私がいなかったとしても、エリオット様はあなたを選ばないと思う」
「な、なんですって?」
「あの方は優しい人よ。王太子妃という立場が、あなたを幸せにしないということが分かっているのよ」
「はあ? なに言っているのよ、この国には王妃様がいないのだから、王太子妃は実質女性の最高権力者よ? あなたこそ、その立場のすばらしさを分かっていないんじゃない!」
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