引きこもり令嬢の契約婚約
「それより、何かあったのですか? ソフィア様」
「……なんていうか、くだらない話よ」

 ソフィアは深く長いため息をついた。

「あなたが聖獣の加護を得たことが伝えられてから、お父様は私をエリオット様に嫁がせるのを諦めて、新しい縁談を持ってきたのよ」
「えっ?」
「オズボーン王国との国境に位置するアルドリッド辺境伯家の次期当主ですって。まだ十五歳の方よ? 振り回されてお気の毒だわ」
「まさか、お受けするわけでは……」
「するわけがないでしょう。私は自分で侯爵位を継ぎたいの。婿養子に入れない男に用はないわよ」

 きっぱり断じた後、ソフィアは深いため息をつく。

「……でも、なかなかお父様にわかってもらえないわ。どうして私を外に出そうとするのかしら。妹は内向的で良妻賢母になるタイプよ。あの子こそ、頼りがいのある男性に嫁がせてあげた方が幸せになれると思うのに」
「ソフィア様」

 セアラは、いつかの父とオルセン侯爵の会話を思い出す。

『私はソフィアをどんなトラブルが起きようとも対処できるような娘に育ててきた。いいか。殿下の結婚に必要なのは愛ではない。いずれは王妃を務められるような能力の娘だ』

 ソフィアの父・オルセン侯爵は内務大臣だ。父の同期でもあり、王家の信頼も厚い忠臣だと聞いている。

(辺境伯家は、家格こそ落ちるが、国の要所を任される重要な家門であることは間違いない。まして、大国オズボーン王国との国境であり、有事が起きれば真っ先に矢面に立たねばならないところだわ……)

 王太子妃にとまで願った娘を、理由もなくそんな難しい立ち位置の家門に嫁がせようとするだろうか。

(違うわ。ソフィア様なら切り抜けられると信じているのよ)

「……私は、オルセン侯爵は、ソフィア様を信頼しているのだと思います」
「どこが? あの人、私の話なんて聞かずに……」
「オルセン侯爵がソフィア様を嫁がせようとしているところは、この国にとって重要な家門ばかりです」
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