引きこもり令嬢の契約婚約
「だから、私との旅行……ということにしたいのですね」
「さすがセアラだね、話が早い」

 婚約者との婚前旅行ならば、国内のどこに行ってもおかしく思われることはない。

「そういうことであれば、協力いたします」
「ありがとう。……ああでも、君と一緒に過ごせることももちろん楽しみだからね」
「えっ」

 顔が近づいて、肩を抱かれる。婚約したとはいえ、こうしたふれあいはそんなにないので、セアラは毎回どうしたらいいのかわからなくなる。

「はは。顔がこわばっているよ、セアラ」
「もう、からかわないでください」

 むっとなって顔を上げた途端に、頬にキスが落とされる。

「なっ……」

 こんな時、どう返したら正解なのかが分からない。今はふたりだから気にしなければいいのかもしれないけれど、さっきまで勉強をしていた部屋で甘い言葉をかけられても、悪いことをしているような気持ちにしかならないではないか。

『エリオット、あんまりセアラをからかわないであげて』

 セアラの戸惑いを感じたのか、袖口からぴょこんとネルが飛び出してきて、エリオットをたしなめた。

「やれやれ、お目付け役が出て来ちゃったな」

 エリオットはセアラから少し離れると、両手を広げて無害をアピールする。

『ホワイティねえさんはいないの? 先にねえさんが止めるかと思った』

 ネルはちょこちょことエリオットの手の甲に乗った。ちょっと怒っているような口調が珍しくもかわいい。

「ホワイティは、今オズボーン王国へ行っているんだ。ドルフと話をしにね」
『あれ、ドルフって結局フィオナについていったんだ』
「今は加護も与えているみたいだよ」

 エリオットとネルの間で交わされる会話が、セアラにはちんぷんかんぷんだ。
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