引きこもり令嬢の契約婚約
「私のこと知らないのね。アドレイド・キャンベルよ。そこ、空けてくださらない?」
「俺が先に座っているんだぜ? 学校では身分は関係ないんだろ? なんでキャンベル公爵の娘だからってどけてもらえると思っているんだよ」
「レディーに席を譲るのは当然のことでしょう?」

 アドレイドは強気で訴えたが、男は動く気がなさそうだ。

「私、今とても授業に出られる気分ではありませんの。どいてくれないのなら、そのベンチの端だけでいいので空けてくださらない?」
「ふん。そうか、わかった」

 最大限の譲歩として言ってみると、男は素直に場所を開けた。

「……ありがとう」

 なんだか変な気分だ。文句を言われると思っていたのに。
 ベンチの端につつましく座ると、男は背もたれに背中を預け、足を組んでアドレイドを見る。全体的に粗暴な印象だ。王都の貴族は所作がもっと上品なので、田舎に領地があるのかもしれない。

「俺も、授業に出るような気分じゃないんだ。同じだな」

 男はアドレイドに親近感を覚えたのか、話しかけてきた。

「まあ、そうなの」
「保護者に勝手に縁談を仕組まれたんだ。しかも年上の高飛車そうなやつ。冗談じゃねぇよな。俺まだ十五だぜ? 縁談なんて五年は先でいいだろうに」

 十五歳であれば、アドレイドの一学年下だ。小生意気な年頃の男の子にとっては望まない縁談なのか。
 新しい縁談を探したいアドレイドにとっては羨ましい話だ。世の中は、どうしてこううまくいかないのだろう。

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