引きこもり令嬢の契約婚約
 アドレイドは少し楽しくなってきた。男性のすねた顔など、あまり見ることがなかったからだ。

(お父様ならきっと怒鳴るわね。反応が新鮮だわ)

「それと、さっきからあなた、口調が乱暴で失礼だわ」
「なっ……、だって学校では……」
「身分は関係ないですけど、先輩に対する礼儀は必要でしょう?」
「ぐっ……」

 顔を赤くして黙り込んだハワードを見て、アドレイドはついにふき出してしまう。

「あはっ、あはは。冗談ですわ。特別に許して差し上げますわ」
「ちぇっ、なんだよ、偉そうに」

 笑ったら、心のもやもやはどこかに行ってしまったようだ。

「あは、ふふ。……羨ましいですわね。私は今、縁談が欲しくてたまらないのに」
「王太子に振られたからか?」
「まあそうですわね。それに、今、家を出たくてたまりませんの」

 あの頑固な父のことだ。家にいれば、このままエリオットがセアラに飽きるのを待つよう言われるだろう。
 そして、その日が来なければアドレイドは修道院に行くことになる。叔母のように。

「そうだわ。叔母様……」

 父の妹である叔母は、長らく現王の妻の話し相手として城で暮らしていたが、彼女亡きあと、ルパート王の後添えにと父から推薦されていた。
 しかし、ルパート王はそれを断り、居場所のなくなった叔母は最終的に修道院に行ったのだ。

(叔母さまにお父様を説得してもらえないかしら。このまま婚期を逃すなんて絶対に嫌だもの)

 思い立ったが吉日だ。アドレイドは立ち上がる。

「ありがとう。話しているうちにいい案が浮かんだわ。私、これで失礼しますわね」
「授業にでるのか?」
「いいえ。寄るところを思いついたので、このままサボります」
「待てよ。俺も行く!」
「……は?」

 なぜハワードが一緒に? とアドレイドの頭の中は疑問符でいっぱいだ。

「どこに行くんだか知らねぇけど、護衛がいるだろ。高位貴族のお嬢様には」
「そうだけど」

 でもあなたも護衛を付ける立場では……?
 そう思ったが口には出なかった。なんとなく、もう少し一緒にいたい気持ちが先だってしまって。

「いいわ。では護衛をお願いしましょう。叔母がいる修道院に行きたいの。王都の西端にあるわ」
「いいぜ。門番に見つからずに学校を抜け出す方法、お前に教えてやるよ!」

 こうして、アドレイドはハワードと共に学校を抜け出すことにしたのだった。

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