引きこもり令嬢の契約婚約
*
塀の崩れたところをくぐり、辻馬車を捕まえたアドレイドとハワードは、ようやく馬車の中で人心地がついた。
「あんなところに人が通れる穴があるなんて。由々しき事態だわ」
「誰も気づいていないみたいなんだよな。俺は入学してすぐに探検していて気づいたのに」
「探検って……子供みたいですわね」
「馬鹿言うなよ。地形の把握は最も重要なことだぞ? 新しい場所に来たら、可能な限り素早く点検して、逃げ場や戦略上優勢となる場所を確保するべきだ」
「軍人の発想ね……。今は平和なんだからいいでしょうに」
アドレイドは呆れるのと見直すのと半々だ。ハワードは学がないと自分を評したが、むしろ知識はあるのではないだろうか。
「で、なんでおばさんに会いに行くんだ? しかも急に」
「お父様を説得しようと思って」
(この子に話す筋合いは別にないけれど……)
でも今は、妙に心が解放されていた。彼だってお家事情をわずかに明かしてくれたのだし、あたりさわりのないところだけ話しても、いいのではないだろうか。
「お父様が私を王太子妃にすることに執着しているのよ」
「でも王子様はもう婚約者を決めたじゃないか」
「お父様が言うには、いつか心変わりするはずだって」
「マジで? 親父さん正気か?」
アドレイドは自然にため息が出る。
子供の頃から、王太子妃になるのはおまえだと言われ続けて育った。だからこそ、アドレイドは学問も礼儀作法も、熱心に習得したのだ。
気位が高い自覚があるが、それも王太子妃になるのなら必要なことだと思っていた。
でも父の言葉に、根拠なんて何もなかったのだ。
塀の崩れたところをくぐり、辻馬車を捕まえたアドレイドとハワードは、ようやく馬車の中で人心地がついた。
「あんなところに人が通れる穴があるなんて。由々しき事態だわ」
「誰も気づいていないみたいなんだよな。俺は入学してすぐに探検していて気づいたのに」
「探検って……子供みたいですわね」
「馬鹿言うなよ。地形の把握は最も重要なことだぞ? 新しい場所に来たら、可能な限り素早く点検して、逃げ場や戦略上優勢となる場所を確保するべきだ」
「軍人の発想ね……。今は平和なんだからいいでしょうに」
アドレイドは呆れるのと見直すのと半々だ。ハワードは学がないと自分を評したが、むしろ知識はあるのではないだろうか。
「で、なんでおばさんに会いに行くんだ? しかも急に」
「お父様を説得しようと思って」
(この子に話す筋合いは別にないけれど……)
でも今は、妙に心が解放されていた。彼だってお家事情をわずかに明かしてくれたのだし、あたりさわりのないところだけ話しても、いいのではないだろうか。
「お父様が私を王太子妃にすることに執着しているのよ」
「でも王子様はもう婚約者を決めたじゃないか」
「お父様が言うには、いつか心変わりするはずだって」
「マジで? 親父さん正気か?」
アドレイドは自然にため息が出る。
子供の頃から、王太子妃になるのはおまえだと言われ続けて育った。だからこそ、アドレイドは学問も礼儀作法も、熱心に習得したのだ。
気位が高い自覚があるが、それも王太子妃になるのなら必要なことだと思っていた。
でも父の言葉に、根拠なんて何もなかったのだ。