引きこもり令嬢の契約婚約
 そして今のアドレイドには、父が道化のようにも見える。
 敵わない望みに執着して道を誤ろうとしているのに、それに気づかず踊っているように。

「私には、エリオット様が心変わりするようには見えないわ。それに、セアラ様と話して、私にも別の幸せになれる未来があるんじゃないかって思えるようになったの。だからお父様を説得して、別の縁談を組んでもらいたいのよ。その説得を、叔母さまにも手伝ってもらおうと思って」
「なるほど」
「同じように王太子妃の座を望んで得られなかった叔母さまなら、私の気持ち、わかってくれると思ったのよ」

 ハワードは頭の上で手を組んで、背筋を伸ばす。

「あんたも大変なんだな」
「先輩と呼びなさいよ」
「はいはい。キャンベル先輩も大変ですねー」
「……あなたって、どう話しても、態度が悪いのね。馬鹿にされている気がするわ」

 小馬鹿にしたような態度に呆れて言うと、ハワードはニヤッと笑う。

「あんたも思っていたよりおもしろい奴だな!」

 辻馬車は、公爵家の馬車と違って、よく揺れる。
 だからだろうか。なんとなく心が弾むのは。
 自分でも予想していなかった行動をしたことで、心が解放された感じがする。

(変なの。年下の子に馬鹿にされているのに、イヤじゃないなんて)

 おそらく彼にそこまでの悪意がないからだろう。

(悪意って、見せていないつもりでも、伝わるものなのね)

 かつての自分はどうだったろう。
 セアラを軽んじて、悪意をまき散らしていた。その悪意を肌で感じていただろうに、セアラは終始穏やかに受け止め、あまつさえアドレイドを気遣ってくれた。

「……恥ずかしい」
「なんだ?」
「いいえ。なんでもないわ。ひとりごとよ」

 過去の自分を消してしまいたくて、揺れる馬車の中でアドレイドは唇をかみしめていた。
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