引きこもり令嬢の契約婚約
 しかし、だからと言って引きこもりのセアラには無理だ。

「私は無理ですよ。他の方……お見合い相手はもうひとり、いらっしゃるんでしょう?」

「ソフィア・オルセン侯爵令嬢だね」

 オルセン侯爵は、この国の内務大臣だ。セアラの父シーグローヴ侯爵とは昔からライバル関係にあり、同学年のソフィアとは、なにかにつけ競わされてきた。最も、セアラに勝つ気がないので、常にソフィアの勝利で終わっているが。

(ソフィア様はとても優秀なのよね。王太子妃にピッタリじゃない!)

「ソフィア様なら立派な王太子妃になれますわ」

 それならば安心とほほ笑んだが、なぜかエリオットの顔はすぐれない。

「うーん。まあそうかもしれないけど。僕は君の方がいいな」

 ドキリとするようなことを言われ、セアラは目を見開いた。
 評判のいいソフィアと比べれば、セアラは引きこもりと言われるような令嬢だ。セアラの方がいい要素などひとつもない。

「お世辞は結構ですよ」

「お世辞じゃないけどね。それに僕と婚約すれば、君にもメリットはあるよ」

 エリオットは少しいじわるに笑うと、セアラの手を握った。

「君も、本来ならば侯爵令嬢として社交に精を出さなければならないはずだ。年齢的にも、御父上が引きこもりを許さないだろう。でももし、僕と婚約すれば、僕の後ろで微笑んでいるだけでよくなる」

「いや、だ、騙されませんよ? 未来の国母となれば、恐ろしいほどの妃教育が待っているじゃないですか」

「そこは……まあ否定しないけれど。でも調査書を見る限り、君は学園の成績は上位だよね。侯爵令嬢だけあって、性格はともかく礼儀作法も身についてはいる。すぐに困ることはないと思う。……とりあえず、仮でいいんだ。正直、僕はまだ結婚する気はない。ホワイティの機嫌を損ねるのも嫌だし、まだまだやりたいことも多い。それは君も一緒じゃないかな」

 薬師になるための勉強がしたい。それはそうだが、王太子の婚約者になどなったら、そんな暇もなくなるのではないだろうか。
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