引きこもり令嬢の契約婚約
 叔母はアドレイドを静かに見つめている。そのまなざしには、哀れみのようなものを感じた。

「あなたは、お兄様の呪縛から逃れたのね」

 ぽそりと、叔母がつぶやく。そして目を伏せ、「私とは違うのね」とつぶやいた。
アドレイドは息を飲んで、彼女を見つめる。

「……私はね、兄の言葉を信じていた。必ずルパード様の妻になれると。でも彼が選んだのはアヴリルだった。私とアヴリルとは、学生時代からの友人だったのよ」
 
 叔母は遠くを見るような目をしていた。

「お兄様は言ったの。心の弱いアヴリル──王太子妃を支え続けろと。そうすればいつか必ず、彼女はその座を私に譲るはずだとね」
「それって……」

 キャンベル公爵が今、アドレイドに言っているのと似たようなことだ。

「普通に考えたら、そんなはずないじゃない? なのに当時の私は兄の言葉を信じた。いつか必ず、アヴリルは自ら身を引き、私が王太子妃に選ばれるのだと」

 たぶん正気じゃなかったのよ、と叔母は言った。
 王太子妃になれると信じて疑わがわなかったかつての自分と重なって見えて、背筋が冷える。

「アヴリルが死んだと聞いて、私はすごく後悔したの。私は本当の意味で彼女を支えてなんかいなかった。心の弱いあの方に、心無い言葉を浴びせてしまったのだもの」

 当時はたびたび戦争が起こる不安性な社会情勢だ。当時王太子だったルパードは聖獣の加護者として表に出ることも多く、城には不在がちだった。
 当然、妻との交流もほとんどなく、それが彼女の心をむしばんでいった。

「何年も子供ができなくてね。ようやく授かったフィオナ様も女の子でしょう? 落ち込む彼女に、励ますつもりで、早く世継ぎを作らないとね、なんて言ったの。それが彼女を追い詰めると、なぜあの時の私は思い当たらなかったのかしら」

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