引きこもり令嬢の契約婚約
 そして一呼吸おいて、アドレイドから目をそらし、石で作られた壁を見つめる。ところどころにある小さなシミを、罪の証だというように睨みつける。

「その二年後、ようやく望んだ男児を産んだというのに、彼女はもうまともな精神状態じゃなかった。ルパード様との仲もこじれていて……結局離縁して田舎の領地に戻ったの。自ら命を絶ったと聞いたけど、私が、殺したようなものだわ」

 叔母の声には後悔がにじんでいた。他人ごとではないと、アドレイドは強く思う。

「結局、お兄様が後押ししたところで、私がルパード様に選ばれることはなくて。年齢だけを重ねてしまった私に他に縁談があるわけでもなく、修道院に入ったの。正直、お兄様を憎んだわ。私みたいな想いをあなたにしてほしくないとは思っている」

 どこか歯切れの悪い叔母を、アドレイドはじっと見つめる。

「でも、……ごめんなさいね。私はきっと、お兄様を説得することはできない」
「叔母さま」
「お兄様にとって、私は出来損ないなの。不出来な者の話など、聞き入れてくださらないわ。わかるでしょう?」

 わずかな反発心が、アドレイドを動かす。わかるなんて言いたくない。

「叔母さまは、不出来なんかじゃないわ。今もお美しくて、気品があるわ」

 叔母は目を見開いた。そこに光が宿ったように思えたのは、錯覚だろうか。

「……あなたは強い子なのね」
「叔母さまは、どうしてそんなにお父様を恐れるの?」

 その疑問に、アドレイドの脳が先に答えを出す。

〝洗脳〟

 アドレイドが今、こんなにも考えが回るようになったのは、聖獣の浄化を受けたからだ。

 その前は、父の言うことが正しいのだと、盲目的に信じてきた。
 それもきっと、あのハーブティのせいで……

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