引きこもり令嬢の契約婚約
「……叔母さまは、お父様からハーブティをもらったことはあります?」
「なに? 急に。あるわよ。頭がすっきりしてとても体に良いからと、いつも都合してくださったわ。王妃様とのお茶会でもずっと飲んでいたの」

 胃の腑のあたりが重い。

「それだわ」

 王妃様を追い詰める言葉を疑問なく言うように、叔母も洗脳されていたのだ。

(やはり、お父様はあのハーブティの効果を知っている。それも、二十年以上も前から)

 父はずっと、自身の血族から聖獣の加護者を出すために、狂ったような執着に囚われているのだ。

(追い詰めたのは叔母さまでも、そうさせたのはお父様よ……!)

 明確な被害者がいるのであれば、父のしたことはやはり罪なのだ。

「叔母さま」
「なあに?」
「……そのハーブティに洗脳効果があるということは、ご存じですか?」
「洗脳?」
「今はまだ調べているところです。でも本当にそうで、お父様がその効果を知って叔母さまに渡していたのだとしたら」

 叔母の顔が一気に青ざめる。

「罪に問われるわ。……駄目よ、アドレイド。そんなことを口にしてはならないわ」
「でも……!」
「お兄様が王位に執着し、私たちを駒のように扱ってきたのは事実よ。でも、お兄様がいなければあなたはただの平民になってしまう。そうして生きていく術などないでしょう? 結局は修道院に入ってしまうことになる。アドレイド、お兄様の不利になることを言ってはいけないわ。自分の為に、そうしなさい? ね?」

 アドレイドは答えられなかった。
 結局、叔母に説得を約束してもらうことはできずに、面会室を後にする。

 前庭では、ハワードが花の中に埋もれている。ガサツな印象なのに花をめでる情緒はあるのかと、アドレイドはぼんやりと思った。

「よう、終わったのか?」

 近づいてきた彼は、アドレイドの様子を見て眉を下げた。

「おいおい、どうしたんだよ。元気ないな」
「……なんでもありませんわ」
「嘘つけよ。説得できなかったのか?」

 突っかかってくるような声が、先ほどまでと違って優しくて、アドレイドの目から涙が零れ落ちる。

「うわっ……泣いた! なんだよ。いったい何が」

 ハワードは慌てた様子であたりを見て、そのあと、そっと頭を撫でる。

「泣くなって、何があったか話してみろよ」

 アドレイドは自然に、彼の服の裾を掴んでいた。振り払われることはないと、なぜだか確信できたのだ。

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