引きこもり令嬢の契約婚約
 キャンベル公爵の名前がソフィアの目に止まる。

(二十五年前は、キャンベル公爵だってまだ二十歳前後よね?)

 いくら家柄がよくとも、このころはまだ平文官のはずだ。
 記録上は『聖獣生息地の調査』となっている。ブライト王国において、聖獣についての文献の保存および研究は文化室の管轄であるため、名目としてはおかしくはない。

(他国まで出るのは珍しいけれど、でも、国境をまたがる森林に聖獣の気配でもあったのかしら)

 ただの調査か。それとも調査を名目とした隠密行動なのか。

(日時と出ていた期間をメモしておこう。それから……)

「ソフィア嬢。目当てのものはありましたかな?」

 保管庫に、シーグローヴ侯爵が入ってくる。

「シーグローヴ侯爵様。もう少しかかります。申し訳ありません」
「いやいや、時間がかかるのは構わんよ。……だが」
「どうかされましたか?」

 シーグローヴ侯爵の表情が陰っているのに気づき、問いかけようとした途端、後ろから父であるオルセン侯爵が現れた。

「ソフィア! なぜおまえがここにいる」
「お父様、ごきげんよう。見てわかりませんか? 調査の為の資料閲覧です。エリオット殿下からのご依頼ですのよ」
「すまんな。先ほど廊下であって、問い詰められてしまって……」

 オルセン侯爵は内務大臣、そしてシーグローヴ侯爵は王族事務室の室長である。広い意味で言えばオルセン侯爵の部下にあたり、高圧的に来られれば従わざるを得ない。

「構いませんわ。シーグローヴ侯爵様」

 ソフィアはにっこりとほほ笑むと、父に対し向かいの席を勧める。

「お父様。何の御用ですか? 私も今は仕事中ですので、手短にお願いいたしますわね」
「おまえは侯爵令嬢だぞ? 何が仕事だ!」
「本当だ、アドルフ。今回の調査は、エリオット殿下直々に、ソフィア嬢に依頼されたものだ」
「はっ、ソフィアとの縁談は断っておいて、仕事だけは頼むというのか?」

 そのセリフからは、軽蔑の意思が見て取れる。ソフィアはため息をついて、否定した。
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