引きこもり令嬢の契約婚約
「いいえ。私がお願いしたのですわ。いずれ文官として仕事がしたいから、実績が作れるような機会をいただけないかと」
「はぁ? お前には縁談を用意したと言っているだろう」

 オルセン侯爵の眉間の皺が深くなったが、ソフィアが動じることはない。

「私も言いましたわよ。王都を離れる気はないし、オルセン侯爵家は私が継ぎますと。そのためには経済力も必要でしょう? 私も殿方と同じように仕事をしないと」
「……お前はなにを考えているんだ! お前の能力を生かせるような道は、私が捜してやると言っているだろう。なぜ黙って言うことを聞けない!」

 思わず振り上げた手を見て、ソフィアは覚悟して目をつぶる。しかし、その手がソフィアに降りてくることはなかった。
 薄目を開ければ、いつの間にか前にレナルドがいる。

「旦那様。落ち着いてくださいよ。ここは屋敷ではございませんし、その話はまた改めてにしてはいかがですか?」
「レナルド……お前、雇い主に歯向かうのか?」
「クビになさいますか? その時はお嬢に雇ってもらいますから構いませんよ」

 まったくひるむ様子の無いレナルドを見て、オルセン侯爵は皮肉気に顔をゆがめた。

「……お前を選んだのだけは間違いだったな」
「なんとでも。俺の仕事はお嬢を守ることです。その相手がたとえ、あなたでも」
「レナルド、手を離していいわよ」

 レナルドは、ソフィアに言われれば、途端に忠犬のように従う。
 ソフィアは立ち上がり、父親に向かって、宣言した。

「お父様は有能よね。相手の能力を掴み、適材適所に落とし込む。その手腕は確かに認めるけど、それだけじゃ人を動かすことなんてできないわ」
「なんだと?」
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