引きこもり令嬢の契約婚約
「前王の信頼も厚く、ルパード様の相談役にもなっていた。若い頃と言っても、ある程度自分の采配でどこにでも行けたはずだ」

 公的な調査ではなく、個人的な行動だとしたら、この時が怪しい。

「私的な調査だとしても、報告書は残っているのではありませんか? 当時のオズボーン国は友好国でもありませんし」
「そうだな。二十年以上前の記録だから、保管期限は過ぎている。あるとすればここにあるはずだ」

 保存庫を振り返り、膨大な資料を前に、全員が一瞬絶句する。

「……提出部署別に、整理されているはずよ。文化室の資料をあされば必ず出てくるわ」
「そうですね。地道に調べればなんとか出てきますよきっと」
「……私はそろそろ執務に戻るぞ」

 逃げようとしたオルセン侯爵を、ソフィアはにこやかに微笑んで捕まえる。

「まあいやだわ。お父様ったら。逃げるなら、人員を貸してくださらない。どんなものを見つけても秘匿できるほど口が堅く、信用に足る人物を二人ほど」
「……くっ、図々しいなお前は」
「ソフィア嬢。私が手伝おう」

 シーグローヴ侯爵が助けに入ると、オルセン侯爵もさすがに気が引けたのだろう。

「急ぎの執務が終わったらまた戻ってくる。二人ほど派遣するから好きに使うといい」
「まあお父様。ありがとうございます」
「まったく」

 ぶつぶつと文句を言いながら廊下に出たオルセン侯爵は、若い男女が廊下を走っているのを見た。

「こら、廊下は走らぬように!」
「あっ、オルセン侯爵様……」

 よく見ると、女の方はキャンベル公爵の娘だ。そして男の方は……。

「アルドリッド辺境伯の甥御だな?」
「あっ、オルセン侯爵」

 ソフィアの縁談相手にと選んだ男だ。やんちゃだが行動力はあり、ソフィアがたしなめてやれば、いい動きをするだろうと思ってのことだが。

「お、オルセン侯爵様。エリオット様にお会いしたいのです。どこにいらっしゃいますか?」

 おずおずとアドレイドが問う。

「殿下に? だが殿下は……今朝城を出発し、アルドリッド辺境伯領へ向かったが」
「は? なんでおれんちに?」

 ハワードの間の抜けた声が、静かな廊下に響いた。
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