引きこもり令嬢の契約婚約
 だとすれば、申し訳ない気もする。人が便利に生きるために、他の生き物の暮らしを脅かしているのならば問題だ。うまく共存できる道を探さなくては。
 セアラはそう思ったが、ネルはあっけらかんと否定した。

『みんなそこまで気にしてないよ。人が行き来してうるさいところより、静かなところに住みたいからルングレン山に行ったんだよ。人の声が好きな聖獣は、街中にいることもあるよ』

 聖獣は気ままなのだと、ネルは言う。
 言われてみれば納得できるところはある。ホワイティも、エリオットに心酔しているのはわかるが、言いなりという感じでなく、むしろエリオットを振り回している。
 ネルも、基本セアラの為に動いてくれるが、服の中にこもってしまえば、呼んでも出てこないことだってあるのだ。

『性格によるところもあるんだけど、力の強い聖獣ほど我は強いんだよ。ドルフなんてその典型だね』
「あ、狼の聖獣の……」

 ルングレン山の最上級聖獣。今はフィオナの傍にいて、国外にいる。あっさり国を出てしまうあたりにも、我の強さは感じ取れる。

「聖獣もいろいろあるのね」
『神様じゃないからね。無償の愛とか持ってないし、人間皆を守ろうとかは思ってないよ。わたしも、セアラが楽しそうならいいかな、くらい』
「王族だから加護を得るってことになっているけど、実際はこうなんだ。だから、聖獣から好かれるような心正しい人間になることが一番大切なんだよ」

 エリオットがゆったりと言う。

「そうなんですね」

 下々に広がっている話と実情にはそこそこ乖離がありそうだ。

「……この山を越えて、フィオナ様はお嫁に行ったんですね」

 今はエリオットがいるから楽しいだけだけど、ひとりでお嫁入りの為に馬車に乗っていたというのなら、さぞかし不安だっただろう。
 セアラはフィオナに思いを馳せながら、馬車の揺れに身を預ける。

< 180 / 233 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop