引きこもり令嬢の契約婚約
 ホワイティが飛びたつと同時に、エリオットも山の斜面を確認し始めた。
 人が突然消えるわけはないのだから、どこかに痕跡があるはずなのだ。

(傍を離れるんじゃなかった)

 今更そんなことを思っても、時が戻せるわけじゃないのに。
 エリオットは自分のふがいなさを想い、唇をかみしめる。

(このあたりなら、駆け上がれないことはないけれど)

 木に手をかけて体を持ち上げる。斜面に立つとやはり不安定で、とても女性が女性を担いでいけるとも思えない。

(固定観念を捨てるべきだ。すっかり女性だと信じ込んでいたが、あれが男だとしたら?)
 
 肩を貸して歩いていた時に見た感じでは、背はセアラより少し低かった。

(だとすれば、手を伸ばしてこのあたりか)

 わずかな手掛かりを探して、エリオットは目を凝らす。

(……あった!)

 それは、破れたレースだ。おそらくセアラの服が、枝に引っ掛かって外れたものだろう。

「であれば、方向はこっちか」
「エリオット様、危ないですよ。降りてください」

 そこへ、ローランドが戻ってくる。エリオットは思わず舌打ちをしてしまった。

「ローランド、こっちに隠れられるようなところはあるかな」
「そちらには道はありませんし、可能性としては崖下を探した方が高くはないですか?」
「だが……」

 次の瞬間、ローランドが動かなくなった。木々の外れの音も消え、空気の張り詰めたような感覚になる。

『連れてきたわよー。エリオット』

 何もかもが止まった空間に、彼の聖獣ホワイティと、大きな銀の狼、そしてその背に男が乗ってやってくる。

「あ、義兄上?」
「やあ、エリオット殿。久しいな」

 やってきたのは、狼の聖獣ドルフと姉の夫であるオスニエルだ。
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