引きこもり令嬢の契約婚約
 ドルフは山の斜面を登る。木々が多くスピードは出せないので、比較的ゆっくりだ。

「そういえば、オスニエル様は加護をいただいてないのに、ドルフと話ができるんですね」
『この姿の時だけな。オスニエルがすごいんじゃないぞ、俺がすごいんだ』

 ドルフが得意げに言う。姉に加護を与えたというこの聖獣は、他の誰よりも気まぐれだ。
 昔は犬の姿でフィオナに飼われていて、その時はエリオットでさえもドルフが聖獣だなんて気が付かなかった。
 完璧に犬に擬態できるのも、能力の高さゆえだろう。

「嫌味な狼だな。まったく」

 そして、そのすごさにまったく動じないオスニエルも、ある意味で大物なのだとエリオットは思う。
 最強の聖獣を前に、萎縮することなく通常を貫ける者が、いったいどれくらいいるだろう。少なくとも、自分には無理だとエリオットは思う。
 その点で、おそらくドルフはオスニエルを認めているのだ。そうでなければ、いかにフィオナの夫であろうと、背に乗ることを許すわけがない。

「……義兄上はすごいですね」

 エリオットが心からそう言うと、『エリオット! 俺の話をきいていたか? すごいのは俺だって言っただろう』とドルフが反発する。

「ドルフ、おそらくあのあたりだ」

 やがて、不自然に倒れている木が見えてきた。細い獣道は、武装した兵士であれば人ひとりが通るのがやっとくらいの幅だ。今は膝丈ほどの草が生えていて、言われなければ気づかずに通り過ぎてしまっただろう。
 上を見上げれば、背の高い木が大きく枝を伸ばしており、空から見ただけではこの道を見つけることはできない。

(フランクリンの鷹の目でも見つけられなかったのだな)

 そこまで計算していたのかはわからないが、やはり敵に回すと恐ろしい人だと思う。
 エリオットはオスニエルの背中を見つめながら、ため息をついた。
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