引きこもり令嬢の契約婚約
「エリオット殿、このあたりに草を踏んだ痕がある」
「え? これですか?」

 わずかに倒れた草だ。そもそもここのところ雨は降っておらず、足跡は残りにくい。

『そうだな。最近のものだ。決まりじゃないか? この跡をたどろう』

 ドルフも同意するが、エリオットにはそこまで判別できない。

(……この人は、王座から命令するだけの人じゃないんだな)

 経験は、王座にいるだけでは積めない。戦争の是非は置いておいて、間違いなく戦地で采配を振るったからこそ判断力にも長けているのだろう。

(僕も頑張らなきゃ。この国を守っていくのが僕の使命なんだから)

 今だ時間は止まったままだから、物音がしない。エリオットはうすら寒さを感じながら、一歩一歩踏みしめる。

『大丈夫? エリオット』

 ふわりと腕に乗ってくるのはホワイティだ。

「……セアラは、大丈夫だろうか」
『今はセアラの時間も止まっているはずよ。どんな状況であっても、これ以上悪化はしないわ』
「……そうだね」

 十分も歩くと開けた場所に出た。傾斜はのぼりから下りに変わろうとしていた。

「ここだ」
 
山肌を削るように穴が掘られている。想像よりも大きく、大人であれば十人は隠れられそうだ。

「……随分すごいの掘ったんですね」

 顔が引きつる。戦争の天才なのは認めるが、なんてことをしてくれたんだという意識の方が強い。

「だから、悪かったって。戦後もここを見つけていないとは思わなかった」
「戦後は商隊くらいしか通らないですからね。アルドリッド辺境伯家の人なら、王都に出るときに使うでしょうが」

 おそるおそるのぞき込むと、人の姿が見えた。

「……セアラ!」

 横たわるセアラは、後ろ手に縛られている。彼女を見ているのは、女性は先ほどの襲われていた女性だ。
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