引きこもり令嬢の契約婚約

引きこもり令嬢、連れ出される

 お茶会の日の夜、シーグローヴ侯爵はご機嫌で屋敷に戻ってきた。

「セアラ、よくぞ心を決めたな!」

「お父様、まだ婚約が決まったわけではありませんよ。もう一度お会いする約束をしただけです」

「それでもお前にしては進歩だろう。早急に、登城用のドレスと舞踏会用のドレスを発注しなければ」

「今持っているものでいいではありませんか」

 セアラはドレスの発注が苦手だ。無防備な姿で採寸されるのがどうにも落ち着かない。
 それでも侯爵家の品格を落とすなと、社交シーズンに間に合うよう毎年新しいドレスは作らされている。枚数が足りないということはないはずだ。

「いかん。オルセン侯爵に『新しいドレスも用意できないのか』と言われては癪だからな」

「私はほとんど夜会に出席していないのだから、ばれるはずないじゃありませんか」

「いやいや、針子の噂話から広がっていくかもしれないだろう。オルセン侯爵に少しでもつけ入る隙を与えたくない」

 ぶつぶつ言う父を横目に、セアラはため息をついた。
 どうしてそんなにオルセン侯爵を目の敵にするのか。セアラはソフィアのことが苦手ではあるけれど、敵愾心はない。
彼女は正しく、決然とした態度の立派な人だ。高潔過ぎて近寄りたくないくらいに。

(ソフィア様なら、どんな人も王太子妃にふさわしいって思うわ)

 思い出すのは、十二歳の時、屋敷で開かれたパーティーのことだ。
 あの時は、父が購入した美術品をお披露目するために、家格の近い貴族が家族単位で招かれた。
 母親が亡くなり、田舎の領地から戻ってきたばかりで友達がいなかったセアラに、友人を作ろうという意図もあったのかもしれない。
 大人が絵画の閲覧に興じている間、子供は子供で集められ、セアラがホストを任された。
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