引きこもり令嬢の契約婚約
 その頃のセアラは引きこもりと言うわけではなかったが、たくさんの人を前に緊張はしていた。それでも、飲み物を勧めたり、ひとりになる人がいないよう気を配ったりと、自分の務めを果たそうとしていたのだ。

「セアラ嬢の眼鏡、分厚いなぁ」

 誰かが言った言葉に、周囲の少年たちが笑い出す。パストン伯爵子息バーニーとその取り巻きだ。上下関係を理解していないのか、勝ち誇ったような顔でセアラを見つめる。
 セアラは顔が熱くなるのを感じてうつむいた。笑って受け流すことも、怒って糾弾することもできず、ただ、喉が詰まった感覚になって、何も言えなくなってしまった。

「それだけしっかりお勉強なさっているってことでしょう? こちらのお屋敷には、大変興味深い本がたくさんありますもの」

 凛とした声が、嘲笑の声を割った。涙目のまま顔を上げたセアラは、そこに自分と同じ背丈の令嬢を見た。
 オルセン侯爵令嬢ソフィアが口もとを扇で押さえたまま、バーニーたちに冷たいまなざしを向けていたのだ。

「……ソフィア様」

「なんだよ、お前。子供のくせに扇なんて。へっ、似合わないな」

 バーニーの標的がソフィアに変わる。しかし彼女はひるむことなく毅然と言い返した。

「あら。見る目がないのですね。この扇の付け根の細工、彫り師が三カ月かけて作った最高級品なのよ。私の宝物ですの。まあ、あなたには一生縁がない代物でしょうけれども」

「なっ……なんで子供がそんなもの持っているんだよっ」

「あら。それは私がオルセン侯爵令嬢だからよ。バストン伯爵子息様。随分年季の入ったネクタイをお持ちですこと」

 子供用の礼服を着ていたバーニーだが、確かに古めかしいデザインではある。もしかしたら、バストン伯爵のお下がりではないかと疑うほどに。

「こ、これは兄上のものだ」

「あら。お下がりなんて私は着たことがありませんわ」

 高らかに笑うと、バーニーは地団駄を踏んで去っていった。 
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