引きこもり令嬢の契約婚約
「まさか。アルドリッド辺境伯がそんなことをするはずが……」
「でも外面だけ見ていても分からんぞ。俺の印象もガタイの割には気の優しそうな男という感じだが、会ったのは一度だけだから何とも言えないな」
「実直な方ですよ。領主の地位にこだわりもなく、平和を尊ぶ方です」
ふたりがアルドリッド辺境伯の人柄について話している間、少年は気まずそうにちらちらとセアラを見る。
「……あなた、名前は?」
「ホレス」
「そう。私はセアラよ。ねぇ、私の近くに、モグラがいたでしょう? どこにいるのか教えてくれる?」
「あれ、聖獣様なんだろ? ……あんたが洗脳したっていう」
「洗脳? いいえ。そんなことはしていないわ。あのね。ネルちゃんは、大地を浄化してくれる聖獣様なの。聖獣様がこの国に力を貸してくれるのは、この国が、私たちが好きだからよ。だから私たちは、彼女に嫌われるようなことをしてはいけないわ」
ホレスは変な顔をしていた。うかがうように何度も下から見上げてくる。
「俺は、あんたから、聖獣様を救おうとして……」
「聖獣の意思を無視してはいけないわ。それは彼らの自由を奪うことに他ならない」
淡々と諭してくるセアラをおびえたように見つめてくる。
「自由を奪ったら、どうなるの?」
「ネルちゃんが大地を浄化しなくなったら、今よりは作物もできにくくなるんじゃないかしら」
「そんなの困るよ!」
「聖獣は神様じゃないわ。気に入らなければ攻撃もしてくる。自由を奪ったのがあなただとしたら、きっとあなたに」
少年の眉尻が下がる。今までで一番、子供に見える表情だ。彼はポケットをまさぐり、おずおずと手のひらを差し出した。
「眠り薬で眠ってる。でも、俺は聖獣様を救うつもりだったんだ」
「眠っているのね。ネルちゃん、起きて」
ネルを受け取り、ゆすってみるも起きる気配がない。