引きこもり令嬢の契約婚約

「でも、ホレスが正しいことを言うかはわからないぞ」

 エリオットが、疑心に満ちた目をホレスに向けた。彼はセアラの後ろに隠れようと身を寄せるが、それが逆にエリオットの逆鱗に触れたようだ。

「僕の婚約者に触るなよ」
「エリオット様。ホレス君はまだ子供ですよ」
「君を担げるほどの力のあるやつを、子供と認識するのはどうかと思う。この子は君を殺そうとしたんだ。正直、信用しようという君の気持ちが僕には理解できない」
『そうだよ。私もぜーったいに、許さない』

 セアラの服の中からぼそぼそつぶやいているネルもどうやら同じ気持ちらしい。
 セアラは苦笑しつつ、できるだけ穏やかに続けた。

「エリオット様もネルちゃんも、怒らないでください。私だって怒っていないわけではありません。でも……この子は命令されたことのおかしさに気づかないくらい、思考する力が足りていないということでしょう?」
「え?」
「エリオット様が望んでいること。この国の教育水準を上げて、芸術を楽しめるような国にすること。それは、彼のような子供たちに教育を施さなければ成し遂げられないことです。ここで彼だけを断罪するのは、問題の本質を見失うことになりかねません」
「セアラ……」

 思いもかけないことを言われ、エリオットは息を飲む。セアラは続けて、ホレスの方を向いた。

「あなたもよ。どれほど尊敬している人が相手だとしても、考えることを放棄してはいけないわ。領主様が言うのなら、人を傷つけてもいいと、本当に思う? 自分の中に正しさの基準を持ちなさい。そして、自分を高めてくれる人のことを信用なさい。領主様はあなたに人殺しになれと言ったのよ? そんな人を信じて、本当にいいと思う?」

 淡々と宥められ、ホレスは顔を赤くしたまま黙った。

「……だ、だって。領主様はゴハンをくれた。俺、あの人がいなかったら死んでた。村の人だって、あの人が仕事をくれなければ生きていけない。だから……」
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