引きこもり令嬢の契約婚約


 エリオットの一行がアルドリッド辺境伯家についたのは、陽が落ちた頃だ。

「ようこそ、お待ちしておりました」

 先ぶれから話を聞いていた辺境伯は、大きな体を揺らしながら、にこやかに迎え入れる。
 セアラは静かに隣に立つホレスを観察していた。
 彼は、驚いたような表情で、ぽかんと辺境伯を見つめていた。一方の辺境伯は、ホレスを見て不思議そうな顔をする。

「エリオット様、今回は視察を兼ねた婚前旅行とお聞きしていましたが、こちらの女性は? セアラ様の侍女ですか?」
「いや、途中で盗賊に襲われたところを助けてやってね。申し訳ないが、今日だけ泊めてもらうことはできるかな」
「盗賊ですか? 山越えのあたりですか?」
「うん。あのあたりは多いのかい?」
「そうですね。時折見張りの兵は出しているのですが。……では、セアラ様の部屋とは別に、もう一部屋用意しましょう。部屋はたくさん余っているので、お気になさらず。早速ですが食事にいたしましょう。皆、待ちかねておりました」

 荷物が部屋に運ばれ、ホレスはセアラたちの隣の部屋を与えられた。
 部屋に入ると、ホレスはうつむいたままぽそりと告げる。

「あの人じゃない。俺の知ってる領主様」
「そうだと思ったわ」

 誰かが、領主を名乗ってその村の人間を操っているのだ。おそらく、あえて教育を与えず、疑いもしないよう食料や仕事の支援もして。

「……許せない」

 セアラの中に怒りの炎が宿る。自分の中に怒りの感情があることに、驚くくらい。
 ホレスの方は元気がなさそうだ。自分の信じていたことの土台が崩れているのだから、当たり前だろう。

「あのさ、一緒に食事とか無理。俺、ここで食べていい?」
「そうね。アルドリッド辺境伯に頼んでみるわね」

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