引きこもり令嬢の契約婚約【※番外編更新中です】
 と、次の瞬間、地面の土が盛り上がり、燃えている落ち葉にかぶさっていく。
 土の魔法だ。おそらくはネルがやってくれたのだろう。

「ドルフ様、私もおろしてください」
『人間の娘にできることなどなかろう』
「人を避難させます。時が止まっているうちに」

 ドルフは火元から離れたところに降り立った。
 駆け出そうとするセアラを、エリオットが止める。

「セアラ。それよりは、一度時間を動かしてもらった方がいい。呼びかけて集める方がスムーズだ」

 確かに、非力なセアラでは子供一人を抱えるのが精いっぱいだ。
 頷いてドルフを見ると、彼は頷いた。

『それはいいが……。オスニエル、お前は身を隠していたほうがいいんじゃないか?』
「俺が? どうしてだ?」
『ここは国境だ。お前の顔を知っているやつがいるかもしれないじゃないか』
「いたところで、文句を言われる筋合いはないな。俺は悪いことをしているわけじゃない」

 オスニエルは堂々と言い放ち、むしろ自分から率先して、火の回りつつある村の中へ入っていった。

『やれやれ。国王の自覚があるのか……。まあいい。では時を動かすぞ』

 ドルフの声と同時に、視界が眩むような感覚に襲われる。
 そして次の瞬間、火のはぜる音と熱気が、一気に伝わってきた。

「セアラは下がっていて」

 エリオットはそう言うと、「火事だ! 皆早く逃げろ」と声を張り上げる。
 オスニエルは、自ら煙の中に飛び込み、子供や老人を引っ張りだしていた。

(偉そうなことを言ったものの、力仕事になれば私は力不足だわ)

 避難した人を集めようとまだ火の回っていない広い場所を探そうとして、周囲に目を配る。

「……え」

 そこに、フードをかぶった男の人がいた。そしてその横顔には見覚えがあったのだ。

「キャンベル……伯爵」

 セアラのつぶやきに、男は振り向いた。そして、見開いた目は、炎に照らされて赤く染まっていた。
 化け物じみた表情に、セアラは息を飲んで言葉を失う。
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