引きこもり令嬢の契約婚約
「す、すみません。重かったでしょう」
「全然。僕、そんなに強くはないけど体自体は鍛えているんだ。セアラぐらいなら簡単に抱えられるよ」

 まさか抱っこされるとは思わなかったので、セアラも顔が熱い。恥ずかしくて、まっすぐ顔を見ることができない。

「……さらわれたり、空を飛んでみたり、いろいろあったもんね。疲れただろう」
「大丈夫です。いい経験になりました」
「僕は、君が誰でも許そうとするから、心配になってしまうよ」

 頬に手が添えられる。エリオットの目が細められて、セアラの心臓は大きな音を奏で始めた。

「君もそう思うだろ? ネル」
『ほんとだよ。ホレスもアドレイドも、許すことなんてないのに』
「ネルちゃん」

 エリオットの呼びかけてひょこりと袖口から出てきたネルは、腕を駆け上がり、肩まで登ってそう言う。

「でも私、アドレイド様には本当に感謝しているの。あのくらいきつく言われなければ、きっとずっと引きこもったままだったと思うから」
「やれやれ。じゃあ僕も感謝しなきゃいけないじゃないか」

 伸ばされた手が、肩のあたりで止まる。
 ネルの視界を隠しているのだと気づいたときには、唇を塞がれていた。

「ん……」
「君が好きだよ。だから、自分を大事にしてほしい」
「……心配かけて、すみません」

 エリオットはようやく、安心したように微笑んだ。

「さあ、ゆっくり休むといいよ。君が眠るまでここにいるから、安心して」
「だ、大丈夫ですよ。エリオット様もお仕事が……」
「今日は本来休暇だったわけだし。ここから先は父上の仕事だ」

 そうして、ネルとエリオットに囲まれて、セアラはいつしか眠りについた。
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