引きこもり令嬢の契約婚約【※番外編更新中です】
 すっかり屋敷になじんているというわけか。
 それに、エスメからの心象も悪くなさそうだ。

「エスメ……その、お兄様って呼び方はなんなの?」
「お兄様がいたらこんな感じなのかと思って。そうお呼びしてもいいですかって聞いたら、いいっておっしゃったの」

 エスメは、うれしそうに頬を染める。現在十三歳のエスメが彼を結婚相手として見ることはなかなか難しいだろうし、そのくらいの距離感がいいのかもしれない。

「そう。じゃあ、ここで。また帰りにここで待っていて」
「ええ。お姉さま、ごきげんよう」

 昇降口で別れ、ソフィアは自分の教室に向かう。

「ソフィア様、おはようございます!」
「あら、メアリ様、おはよう」

 高位貴族であるソフィアの周りには、いつも令嬢たちが集まってくる。

「課題難しかったですわー」
「あら、どこが? 教えましょうか」
「いいんですか?」

 令嬢たちの声はにぎやかだが心地いい。歓談するソフィアの視界に、机で本に没頭しているひとりの令嬢が入ってくる。

(セアラ様……)

 セアラ・シーグローヴ。家格としては同じ侯爵家の同い年の令嬢。親しくなってしかるべき彼女とは、実は二言三言しか話したことがない。
 親同士の仲があまりよくなく、行き来がないことも理由の一つだが、何よりもセアラ本人が、人と交わる気がないのだ。

(高位令嬢として、それでいいと思っているのかしら。呆れるわね)

 学校は、社交界の縮図だ。ここで世渡りできなくて、結婚してからどうするつもりなのだろう。
 彼女を見ていると、もどかしく感じてしまう。
 決して能力がないわけじゃない。分厚い眼鏡のせいで、よく表情が見えないことはあるが、彼女が人と話すときにとても気を使っていることも伝わってくる。

「……もったいない人」

 ぽそりと本音が漏れ出た時、教室に教師が入ってくる。
 ソフィアは頭を切り替えて、前を向いた。

(まあ、人のことを心配している場合じゃないわね)

 ソフィアは、父の期待に応え、王太子妃にならねばならないのだから。
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