引きこもり令嬢の契約婚約
「ゴホン、だ、だからだな。もっと堂々としていなさい。お前はこのシーグローヴ家の娘なのだからな!」

(家格が高いのに、中身が伴わないのも悩みのひとつですけどね……)

 いろいろと面倒くさい父だが、セアラに対して愛情があるのは伝わってくる。口に出したら傷つけてしまう気がして、内心で毒づいた。

「はあ。エリオット様はいつものようにキラキラしているんだろうなぁ。……気が重い」

 馬車で迎えに来るということなので、支度を終えたセアラは暇つぶしの本を読みながら待っていた。
 晴天ではあるのだが、今日は風が強い。庭の木が、斜めに枝を揺らしている。

(帽子は被らないほうがいいわね。飛んでいくだけだわ)

 メイドたちによって、髪も服も綺麗に整えられたが、この調子では崩れるのもすぐだろう。
 ますます見すぼらしくなりそうで、気が重い。

「お嬢様、王太子様がいらっしゃいました」

「ええ。すぐまいります」

 セアラは諦めて立ち上がる。玄関ホールに出ると、麗しい金髪の王子が待ち構えていた。

「やあ、セアラ嬢。会えてうれしいよ」

「……こちらこそ。今日はお誘いありがとうございます」

 これは時を稼ぐための仮婚約だというのに、王子様は甘い笑顔で近づいてくる。しかし、セアラに演技などできようはずがない。顔がこわばってしまうのも仕方ないだろう。

「人気の劇なんだよ。ほかにも、君に見せたいものがある。……シーグローヴ侯爵、セアラ嬢をお借りするよ」

「どうぞどうぞ。なんならお持ち帰りしていただいても」

「さすがに早いよ。僕は彼女に怖がられたくはないからね」

 エリオットと父親の白々しい会話に、セアラは辟易していた。

(もう、出かける前から帰りたい)

 エリオットのエスコートを受けながら、セアラは不敬にもそんなことを思う。
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