引きこもり令嬢の契約婚約【※番外編更新中です】
「そうよ、お兄様。一緒に食べましょう?」
「でも俺は護衛ですからねぇ」
「護衛だと言うなら、私たちから離れている方がダメでしょ。さっさといらっしゃいよ」
ソフィアはメイドに三人分のお茶を用意させる。
レナルドは、最初は所在投げにふたりの後ろをうろうろしていたが、ソフィアに睨まれて席に着いた。
「ちゃんと自分の分も買ってあるのでしょう。変な遠慮することないわ」
「いやいや、後でこっそり食べるつもりだったんですよ。ご存じです? これ、新作なんですよ」
「わあ、おいしそう」
優雅にお茶を飲みながら、妹とレナルドを眺める。
レナルドは、ケーキを口に含んだ瞬間、目尻が本当に垂れる。作り笑いでないその表情に、ソフィアの心臓がドクンとはねた。
「おいしいですね。お兄様。新作のケーキなんてどこでお知りになったの?」
「友人が教えてくれたんです。あの店で売り子をしていましてね」
(売り子……?)
ケーキ屋の売り子と言えば、女性だろう。労働者であることを考えれば平民だとも思える。
(え? どういう関係? まさか恋人?)
レナルドは二十歳。恋人のひとりくらいは今までにもいたかもしれない。エスメが結婚できる年齢になるにはあと三年あり、今すぐに身の潔癖を求められるわけではないけれど。
(もしそうなら、エスメの相手にはちょっと……じゃない? お父様に確認してみようかしら)
「お嬢もおいしいですか?」
「えっ? ええ、もちろん。さすがメルトールのケーキね」
「お呼ばれの時にも、土産にいいですよ。その時はぜひ俺にお申しつけください」
「……ええ」
何となく釈然としない気持ちを抱えたまま、ソフィアは頷いた。