引きこもり令嬢の契約婚約【番外編も完結】

「国王陛下のおなりです」

使用人のひとりが発した声に、会場は一時、静かになる。奥の扉が開いて、ルパード王がその姿を見せた。

「ああ。そんなにかしこまらなくともいい。こうして皆の元気な姿が見られること、世界が平和だと実感することは、私にとっても大いなる幸せだ」

 ルパード王は感慨深げに言うと、少し表情を曇らせて、エリオットを見た。

「今日は一つ報告があるのだ。なあ、エリオット」
「はい、父上」

 呼ばれたエリオットは、陛下とは対照的に晴れ晴れした表情だ。

「実は僕は、卒業後、一年間留学することになりました」

 会場がざわついた。
 ここにいるものの多くが、エリオットの側近になることや正妃になることを夢見て集まった若人やその親であるのだから当たり前だ。
 いよいよエリオットの側近選びが本格化するというこのタイミングで、まさかの留学とは。

「留学先は、姉、フィオナが嫁いだオズボーン王国。建築美術を学び、やがてこの国の繁栄に寄与できるよう努めたいと思っています」
「お待ちください。エリオット様。であればせめて、婚約者だけでも決めていただけたら」

 焦ったように言うのは、現在二十歳の令嬢を持つ、アップルトン伯爵だ。

「僕は、年頃の令嬢たちを縛るつもりはないよ。皆、しかるべき時期に良縁を見つけてほしい」

 貴族たちから見れば、自ら王太子妃の座を諦めろと言われているのと同じことだ。
 とはいえ、待っていても王太子妃になれるのはひとりだけ。ソフィアやアドレイドのような高位貴族の令嬢が控えている以上、伯爵以下の貴族令嬢が王太子妃に選ばれる可能性は低い。

(……エリオット殿下もたいがいズルいわよね。あくまでも自分たちの選択で辞退させようとしているのだもの)
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