引きこもり令嬢の契約婚約
 劇場の支配人が、エリオットを見つけて飛んでくる。

「これはこれは、エリオット様と……」

「シーグローヴ侯爵令嬢セアラ殿だよ」

「シーグローヴ侯爵様の。お初にお目にかかります。私、当劇場で支配人をしております、バーソロミュー・ケードと申します。以後お見知りおきを」

「セアラ・シーグローヴです。よろしくお願いいたします」

「さあ、どうぞこちらへ。ロイヤルボックスをご用意しております」

 ぐいぐいくる支配人に押されておとなしくなったセアラは、にこやかに会話を続けるエリオットと支配人の後についていった。
 ロイヤルボックスの席は、舞台が上から見渡せて、しかし、一階の観覧席に座る人々の視線は届かない、上級貴族向けの席となっている。

「お飲み物をお持ちします」

「ありがとう」

 慣れた様子のエリオットを見ながら、「よく来られるのですか?」と聞いてみる。

「うん。劇が、というよりは、この建物が好きで」

「建物?」

「荘厳であり、優美だろう。ここで演じることで、演目には箔が付く。建物にはそういう効果があると思わないか?」

 確かに、ここは王侯貴族も多く訪れる由緒正しい劇場として知られている。同じ演目でも、小さく簡素な劇場で見たら印象は違うのかもしれない。

「それは考えたことがありませんでした」

 エリオットが自分とはまったく違う視点に立っていることに、セアラは少なからず驚く。

「僕は、建築美術に興味があってね。オズボーン王国への留学もそれが目的だった。芸術は人の心を豊かにする。誰もが気軽に入れる博物館や美術館をつくりたいんだ。忙しい人は建物だけでも楽しめるように、伝統的な建築様式を用いて……。僕は平民にもっと娯楽を楽しんでもらいたい。だから、平民にも広く開放できたらって」

 エリオットが饒舌で、生き生きとしている。彼はいつも笑顔だけれど、今の笑顔はもっとずっと楽しそうで。

(これが本来の笑顔なのかしら。だとしたら今までのは全然……)

 本気の笑顔なんかじゃない。王太子としての笑顔の仮面だ。

(すごいな……)

 セアラは自分の気持ちがすぐ顔に出る方だ。不安も動揺も、すべて表情に現れてしまう。だから、周囲の人を不快にさせてしまう。
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