引きこもり令嬢の契約婚約
(まるでソフィア様みたい。お二人はやっぱりお似合いなんじゃないかしら)
そこまで考えてセアラは不安になってきた。自分が迂闊にエリオットの提案に乗ったせいで、有能な侯爵令嬢が王太子妃の座を逃しでもしたら、国家単位の損失になってしまう。
(せ、説明しておいた方がいいんじゃないかしら。ソフィア様に)
ひとりアワアワしていると、エリオットが言葉を止めた。そして、心配そうにセアラの顔を覗き込んでくる。
「ごめん。夢中になってしまった。つまらなかったかな」
エリオットはどうやら、セアラの不安げな顔が気になったらしい。
「いえ。その、違います。先ほどのお話はそう……その視点はなかったからすごいなって……」
そこまで言ったものの、確かに気になる点はあった。
「ただ……、失礼な意見かもしれませんが、平民にそこまで余裕があるとも思えません。余暇を楽しむよりも、仕事をすることを選ぶでしょうし。芸術を楽しむには基本的な教養も必要になります」
笑顔のエリオットの眉間に、一瞬だけ皺が寄る。
どうやら機嫌を損ねてしまったようだが、ここまで言ってしまった以上、どういう意図で言ったのかは理解してもらわないといけない。
「エリオット様は、暮らしに困ったことはないでしょう?」
「僕が芸術を好むのは、恵まれているからだと?」
「ええ。ありていに言えば。ただ、平民にも娯楽が必要なのはおっしゃる通りです。ものすごく立派な芸術じゃなくてもいいとは思いますけど。人生が、働くだけのものとするのは、悲しいことですから」
少し考えて、セアラは続ける。
「……娯楽を楽しめるようになるための素地を整えるのは、もしかしたらエリオット様じゃなければできないことかもしれません」
セアラは、ぼんやりと幼い頃を思い出す。
「弟が生まれて体調を崩しがちになった母の療養で、子供の頃は領地に住んでいたんです」
「銀の産地として有名だよね。途中の道も険しいから、王都との行き来は大変だろう」
「ええ。王都からは随分離れているので、流行も文化も数年単位で遅れている感じです」