引きこもり令嬢の契約婚約【番外編も完結】
 はあ、とレナルドのため息が部屋に沈む。なにかただならぬ気配を感じて、ソフィアは真顔になった。
 レナルドがいなくなるなんて、考えたことも無い。
 いなくなったら、誰がソフィアを休ませてくれるのだ。
 年がら年中、令嬢相手にも官職相手にも気を使いながら、弱みを見せまいと生きているのに。レナルドがいなくなったら、息を抜く時間が無くなってしまう。

「解雇なんてしないわよ。絶対に。どうしてそんなことを言うの。お父様に何か言われたの?」

 重ねるように続ければ、レナルドは困った表情のまま、ひざを折り、しゃがんでソフィアに目線を合わせた。

「……ホールデン家を勘当されそうなんです」
「は?」
「実は父が持ってくる縁談を断り続けていてですね。今度断ったら、除籍するって言われたんですよ。それは別にいいんです。除籍されても、お嬢の傍にいたいので」

 そして、彼は懇願するように上目遣いでソフィアを見た。

「でも、ただの平民になったら、オルセン侯爵に解雇されてしまいそうな気がするんです。旦那様にとってみれば、家格も含めて俺を評価してくれているでしょうから」

 それはそうだ。あわよくばエスメの婿にと思って雇ったのだし、それが平民となれば父にとって、彼を雇う必要性は薄れるだろう。

「……レナルドのお父様は、あなたが身を固めれば勘当はしないって言っているの?」
「父にとっては、配偶者を得て一人前の男らしいです。でも、俺はお嬢以外の人を守る気はありませんから」

 愚直に見つめてくるこの男の持つ感情が、尊敬なのか愛情なのか、ソフィアはいつも測りかねている。だからこそ、今までは一番深いところに踏み込むことは避けてきた。
 だけど、いなくなられるのなら話は別だ。ソフィアは欲しいものはとりに行く主義だ。自らの爵位が欲しいからと言って、恋愛を犠牲にするつもりはない。

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