引きこもり令嬢の契約婚約
しかし父、シーグローヴ侯爵は、要職に就くくらいには有能だった。
数日後には、意気揚々と部屋に来て、セアラのささやかな希望をあっさりと打ち砕いたのだ。
「セアラ、お前、今度見合いをしなさい」
「……は? へ? お相手はどなたですか?」
「王太子殿下だ。いいか、絶対に逃げるなよ。我が家の存亡にもかかわるからな」
「ちょ……お父様!」
多くを語らず、父は部屋を出て行ってしまう。セアラは立ち尽くしたまま呆然とした。
「王子様って……嘘でしょ」
王太子──エリオット殿下は、国王陛下の第二子で唯一の男児だ。金色の髪を持ち、男性としては心配になるほど心優しく、幼い頃は泣き虫殿下と揶揄されたことすらある。
「む、無理過ぎる。引きこもりが相手できるような人じゃないわ……」
完全に腰が引けていく。
逃げるなとは言われたけれど逃げたい。侯爵家の体面を考えれば、やれるのは当日の仮病くらいか……
そこでセアラはハタと気づく。
(待って。エリオット様と言えば、あのホワイティ様が加護を与えているお方)
この国の王族は、聖獣の加護を持っている。エリオットに加護を与えたのは、どんな病気でも治す薬を作れると言われた、知の聖獣ホワイティ。薬師を志す者の憧れの存在だ。
「ほ、ホワイティ様に会える?」
もしそうなら、会ってみたい。
せめて一目みるだけでもいい。憧れの聖獣様の姿を目に焼き付けたい。
どうせ、セアラのようなびん底眼鏡の令嬢など、王太子が気に入るわけがないのだ。
その前に、一度だけホワイティに会えるならば、勇気を出す価値はあるのではないだろうか。
セアラは拳を握り込み、決意する。引きこもりには過ぎた場所だが、なんとか頑張って行ってみようと。